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岩ちゃん様アニメナレーション投票一位おめでとう記念

 

 

 

「やだ!! 岩ちゃんがぁ!!!」

「うるせえ!!!」

「いだっ!!」

岩泉の大きな拳が及川の脳天に直撃する。痛みからか、それとも現状への不満からか、及川は殴られても駄々っ子のように大きな声で泣き喚くのをやめなかった。岩泉もさすがに溜め息を吐いて、ぺたんと座り込む及川の隣に腰を下ろしその顔を覗き込む。

「なぁ、俺だってお前が一位だと思ってたよ。ていうか、みんなそう思ってたって。なんかの間違いだからもう泣くな」

何が悲しくて18歳の男の幼馴染がぎゃんぎゃん泣くのを慰めなくてはならないのだろう。しかも、その理由がナレーション投票で一位ではなかったからだなんて。馬鹿らしいにもほどがある。

岩泉一の幼馴染の及川徹はそのルックスとバレーセンスから女子から絶大な人気を誇る。だからてっきり岩泉は、ナレーション投票の6位からの発表のどこかに必ず及川が入ると思っていたのだ。それはきっと、自分の人気をしっかり自覚している及川だってそうだったはずだ。しかも、及川よりもルックスの冴えない自分に負けてしまったなんて、及川もきっと悔しいのだろう。岩泉自身、この結果は予想していなかったし、いったいなぜこんなことになったのかてんでわからない。

「ち、違うもん……ぐすっ」

 及川が嗚咽を飲み込んでなんとか声を絞り出す。

「おれ、おれ、岩ちゃんに投票したもん……毎日……」

「はぁ!?」

 ナレーションの投票期間は長かった。一日一票入れることが出来るので、勝ちたければ毎日自分に入れるべきだろう。なのに、及川は岩泉に入れたというのだ。

「なんでお前俺に入れてんだよ。んなの勝ちたいんだったら自分に入れとけよ……」

「やだよ! だって投票は好きな人に入れるもんでしょ!?」

 がばっと顔を上げた及川の言葉の意味を正しく理解して岩泉は思わず顔が赤くなる。つまり、及川は岩泉が好きだから、自身にではなく岩泉に投票していたのだ。こんなところまで自分と及川は似ているのか、と岩泉は嬉しくなって及川の身体を抱きしめる。

「俺もお前に投票してたっつの。ほんっとお前ってめんどくさい奴だな」

「ぐすっ。岩ちゃんが俺に入れてるのなんてわかってたもん」

「あーハイハイ。どうせ俺はお前のこと大好きだよ」

「ふふっ、岩ちゃんは俺のおかあちゃんだもんね」

「お前はおかあちゃんとキスすんのか」

「マザコンだからぁ」

 そう言って、ちゅっとかわいいリップ音を立てて二人はキスをした。鼻をくっつけあってクスクスと笑う。なんだかおかしい。バカップルもいいところだ。

「あ、じゃあ何でお前泣いてたんだよ」

 及川が岩泉に票を入れていたのなら、岩泉が一位になって不満があるわけがない。なぜあんなにも騒いでいたのか疑問が残る。

「だって、俺だけの票で一位になったわけじゃないでしょ? 他のたくさんの人が岩ちゃんのことが一番好きで岩ちゃんに投票したってことじゃん! みんなが岩ちゃんのかっこよさに気付いちゃった!」

 俺の岩ちゃんなのにー!と叫んだ及川はその勢いのまま岩泉の胸に縋り付く。184㎝の男に抱きつかれた岩泉は体勢を崩して後ろに倒れ込む。

「いでっ」

「岩ちゃんがとられちゃう……ぐすっ」

 仰向けに倒れた岩泉の胸に顔を埋めて、及川はまた鼻を鳴らして子どものようにぐずりだす。なるほど、そういう理由か、とやっと合点がいった岩泉は及川の背中をぽんぽんと叩いて微笑んだ。

「お前俺のこと好きすぎ」

「好きだもん」

「俺もお前のこと好きすぎだから心配すんな」

「おっぱい大きなお姉さんがはじめくん好き、とか言ってきても着いて行かない?」

「おっぱいはお前も大きいから心配すんな」

「じゃあ、きれいなお姉さんがはじめくんいらっしゃい、とか言っても」

「顔はお前もきれいだろ」

 及川の変な裏声を駆使した例え話を、岩泉は間髪入れずに否定する。及川はぐぅ、と唸って顔を上げて岩泉を見た。その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃで、岩泉はちょっとどきっとする。

「お前ぶっさいくな顔になってんぞ」

「ぶっさいくな俺も好きなくせに」

 岩泉は大きな手でごしごしと乱暴に及川の顔を擦る。痛いよ、と言う及川の声を無視して最後はぺしっとそのきれいな形の額を叩いた。

「岩ちゃん一位おめでとう」

「俺の中ではいつもお前が一番だよ」

 バカップルだなぁ、と二人は同時に心の中でそう思った。

 

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