top of page

及川さんが岩泉さんに片思いしている描写があります。ハッピーエンド。

 

 

 

1

 

 きっかけは半年ほど前。部室で二人っきりになった時にマッキーが発した言葉だった。あんまりよく覚えていないけど、確かこんな感じ。

 

 

「ねー、おまえらってホモ?」

 立てつけの悪いロッカーのドアをガタンと音をさせながら閉めたマッキーは、振り返って尋ねた。

「え、なにソレ! だれとだれよー?」

 一瞬ギクッとしたけれど、俺はわざとわからないフリをしていつも通り明るい声で聞き返した。でも振り返ってマッキーの表情を見た時に悟った。あぁ、彼は質問をしたのではない。自分の疑念を確信に変えたかっただけなのだ、と。そしてどうやらそれは成功したらしい。マッキーの顔は笑っていたけれど、その鋭い目は探るように俺を見ていた。マッキーが何も答えずに静かに微笑んでいるのを見て、俺は自分の顔から表情が消えていくのを感じていた。

「ちょっとおまえら仲良すぎでしょ」

 黙りこくった俺を見て怒らせたと思ったのか、マッキーは笑って言葉を付け足した。それは呆れたような、でも優しい言い方だった。そのいつもと変わらない優しい口調に俺は内心安堵した。気持ち悪いと思われたり、嫌われたわけではないらしい。俺は溜め息を吐いて、そのままロッカーにもたれるようにして、床に座り込んだ。

「岩ちゃんは違うよ、俺が勝手に好きなだけ」

「岩泉、ノーマルなの?」

「至ってフツー。女の子しか見てない。女の子大好き」

「それはおまえだろ」

 マッキーはまた笑った。出来るだけいつも通りに振る舞って、俺を安心させようとしているように見えた。マッキーは俺の隣に座って、俺の頭に優しく手を置いた。その手は俺の後頭部を、髪に指を通してすっと撫で下ろしていく。そうして何度かそれを繰り返して、俺もそれを黙って受け入れた。慰めようとしてくれているのが嬉しかった。息を吸うと、涙がこぼれそうになるので、必死に耐えた。そうすると今度は堪えた涙が鼻から流れようとするので、俺はすん、と鼻を啜った。マッキーは居た堪れなくなったのか、「岩泉は及川のこと好きだよ」と言った。俺は俯いたまま「友達としてね」と小さく答えた。そしたらマッキーはおかしそうに笑って言った。

 じゃあ、片思いなんだ、俺と一緒じゃん。俺も及川徹って子のこと好きなんだよね。

 俺が驚いて顔をあげると、マッキーの顔は泣きそうに歪んでいた。

 

 

 その後、なんだか流れでマッキーの家に行って、そういうことをする雰囲気になった。俺は別にやけくそになったとかではなくて、落ち込んでいる時に好きだと言われて心が傾いたってのが本音だ。たぶん、マッキーは賢いし、ちょっとズルいから狙ってたんだと思う。俺も、マッキーのそういう大人っぽいところを知ってるから、安心して誘いに乗れたのかもしれない。親の帰り遅いから、というマッキーの言葉に、いつもと違う駅で降りた俺は、初めてマッキーの家にお邪魔した。

 俺は男と付き合ったことはなかったし、ましてそういったことをするなんて初めてだったけれど、マッキーはどうやら経験があるようだった。高校一年の頃から同じ部活でほぼ一緒に3年間を過ごしてきた友人がまさかこっそり同性とのそういう経験を済ませてるとは全く予想してなかったし、こんなにいつも一緒にいるバレー部の誰にもバレずにいつの間にって、しかも誰とだよって言うちょっとした好奇心と嫉妬の混ざったような気持ちが起こったが、聞いてしまって雰囲気が壊れるのが嫌で黙ったままでいた。

 マッキーが言うには、受け入れる方はとても負担が大きくて、準備をしなければいけないらしい。そして、マッキーは入れる側しかしない主義らしく、俺はどうなのか聞かれて、やったことないからわかんない、と答えたらじゃあ試してみよっか、とマッキーは言った。目を細めて笑った顔は、俺と一緒になって金田一をからかったりする時みたいなちょっと悪い顔だった。

 結果、ローションを塗られたり指を入れられたり散々な思いをして、最後は「もう無理!!」という俺の泣き叫ぶ声にすっかり萎えたマッキーが折れて終わった。お尻に指を入れるという想像するだけでも恥ずかしい行為を部活の友人にされて、俺の男としてのプライドはすっかりボロボロになってしまった。マッキーは何度か大丈夫?とごめんな、を繰り返していたけど、俺は手で顔を覆ってマッキーの顔も見なかった。心底すまないという顔であったとしてもちょっと許せないという心境だった。俺はそれくらい、何もわかっていないまま“そっち側“の世界に足を踏み入れてしまったのだった。

 30分か、一時間かわからないけれど、ずっとベッドで背を向けてショックを受けていた俺に、マッキーが焦れたのか、じゃあお前が傷付かないようなイイコトしようか、と言った。俺はもうそんな気分じゃなかったので、正直マッキーまだ性欲あんのかよ、とうっとうしく思っていた。てか俺らさっきまで友達同士じゃなかったっけ。そんなに俺で興奮してんの。180㎝オーバーの筋肉付いた男の体の何がいいんだろうか。マッキーほんとにゲイってやつなんだな。

「及川おこんないで」

「及川ごめんって」

 顏を覆ってずっと動かない俺に、マッキーはわざわざ床に膝をついて目線を合わせて、俺の顔を覗き込んだ。指の隙間から見えたマッキーの顔があまりに悲しそうで、その表情は不機嫌が最高潮に達していた俺をして、もしかしたらこの友人を傷付けたかもしれない、と思わせるほどのものだった。だから俺は少し焦って、怒ってない、とだけ言って腕をどかした。そうしたら、マッキーはいつもみたいに目を細めて笑って、よかった、俺のこと嫌いになんないでね、主将さん、と言った。部活で冗談を言い合う時と同じ、いつものマッキーだった。あ、こいつ演技したな、と思ったけれど、もう引っ込みはつかなかった。

 

 マッキーのいうイイコトは本当になかなかよかった。俺もやっぱりゲイかもしれないと思ったくらいに。性器と性器をすり合わせるというなんともグロテスクなアレなのだけど、ローションをつけてすると気持ちよかった。っていうか、先にそっちからしてくれたら俺もこんなショックを受けずに済んだ気がするが、しつこく言うのもなんなので言わなかった。

 全部終わったらマッキーが冷蔵庫からアイスを持ってきてくれて、二人で食べながら部活の話をした。“そういうこと”をした後だったけど、今まで何も変わらない会話だった。けどいちご味のアイスを食べていたマッキーが、何も言わずに俺のバニラ味のアイスを食べたり、それに対して俺も当たり前のように感じたりして、やっぱり二人の関係は変わったのだと気付いた。高1の夏に初めて彼女とセックスした後に、急に距離が近くなったのを思い出した。そう言えば、セックスをしたカップルはパーソナルスペースが近くなるってまっつんが言ってた。あの時は「だからあいつら付き合ってるぜー」って、クラスの仲良い男女に対して言ってたんだった。俺はふと、隣に座っていちご味のアイスを食べるマッキーを見た。マッキーは俺の太もものすぐ横に手を付いて座っていた。俺の視線に気付いたマッキーが「ん」と言って俺にアイスの最後の一口を寄越した。俺はいちご味は甘ったるくて好きじゃなかったけれど、そのアイスは中に入っている氷がシャクシャクして食感が良く、甘さも控えめで悪くなかった。俺は「このいちごおいしい」と言って、マッキーの手に自分の手を重ねた。なんとなく、そうするべきだと思った。

 

 

 アイスを食べ終えてマッキーの家の玄関を出た時、点滅してメッセージを知らせるスマートフォンを見ると、時刻は8時半を回っていた。親には遅くなると連絡したけれど、まっすぐ帰っても9時頃になるだろうから、さすがに少し怒られるだろうなと思った。スマートフォンのアプリを開くと、岩ちゃんからのメッセージだった。玄関の鍵を閉めるマッキーの姿を確認して、タップしてメッセージを開く。

『お前まだ帰ってねぇの? おばちゃんさっきうち来て、俺といると思ったって。マッキーかまっつん?』

 お母ちゃん余計なことを、と俺は天を仰いだ。真っ暗な空に星が点々と小さく光っている。何か返事をしようと思ったけど、マッキーが自転車を押して門扉を開けたので俺もスマートフォンをズボンのポケットにしまった。

「だれ?」

「おかあちゃん」

 咄嗟に嘘を吐いた。別にやましいことがあるわけではないけど、このタイミングで岩ちゃんからの連絡だと言うのはさすがにまずいと思ったからだった。マッキーは口の端を上げて、ふぅんと言った。なんだかその反応が怖くて、俺は今すぐ「嘘ですごめんなさい」と言いたくなった。けれど本当のことを言って誤解されるのも怖かった。

「おばちゃん、早く帰ってこいって?」

「ううん、遅いから夕飯なしだよって」

「じゃあ一緒に駅前のラーメン食べて帰ろ」

「マッキー駅まで送ってくれんのー?」

「道わかんないでしょ」

「ほんとだ」

 マッキーは笑って、それに俺紳士だし、と付け足した。もしかしたら、俺が駅までの道を覚えてても、マッキーは俺を駅まで送るのかもしれない、と思った。そうしたら、やっぱりさっきの嘘をすぐにでも謝りたくて仕方なくなった。それでも俺は、もう18歳で、大人のことも少しわかっていて、世の中には言わない方がうまくいくこともあると知っていた。

 

 俺は駅でマッキーと別れるまでずっと心の中がざわざわしていた。俺は絶対結ばれないけど好きな人がいて、マッキーは部活が一緒の男友達で、その男友達に好きだと言われたその日にえっちなことをした。俺は自分が思った以上にメンタルの弱いタイプなんだな、と少し悲しくなった。

 マッキーは俺と、遊びではないと思う。俺も、遊びでなくていいと思った。だからこそ、傷付けることなく初めの一歩を踏み出せたらよかったのに、と思った。

電車の中はサラリーマンばっかりで、そんなに混んではいなかったけれど、エナメルバッグが邪魔になるので、扉のそばに立って外を見た。ゆっくりと、音を立てて電車が駅を出た。なんとはなしに外を眺めていたら、線路沿いに自転車を押した背の高い男が立っていて、暗くてよくわからなかったけれど、俺を見て少し笑ったような気がした。俺は咄嗟のことに反応できなくて、驚いて数秒固まっていた。心臓がドキドキした。マッキーが俺の姿を見るために待っていたのかもしれないという気持ちと、そこまでするかな、という気持ちで俺はスマートフォンでマッキーの連絡先を開いたまま、何もできなかった。

 

 

 

2

 

 日曜日、他校との練習試合で、俺たちは25-17といい流れで1セットを取った。入畑監督は、俺と岩泉の代わりに2年のウイングスパイカーを入れた。俺と岩泉は、試合が始まる前に監督と溝口コーチから2年を育てたいから1セット目で交代になる、と告げられていた。2セット目が始まる前、及川はちらっとベンチに座る俺と岩泉の方を見た。俺は口の端を上げて笑ったけど、及川は集中していたのか、笑わなかった。

 2セット目は接戦で最後は追いついてデュースにまで追い込んだが、結局相手に取られた。ここで踏ん張れないのは厳しいな、と隣で岩泉が呟いた。同感だった。たぶん、コートの中の選手たちが一番思っていることだろう。3セット目が始まる前に、岩泉が俺たちの代わりに入った後輩二人に声をかけていた。もっとこうしろ、とかのアドバイスではなく、今のであっているから自身を持って思いっきりやれ、という優しい言葉に、岩泉らしいな、と思った。岩泉よりいい声掛けをしてやれる気はしなかったので、俺はその様子を横目で見ていた。ふと横を見ると、及川がドリンクを持ったまま岩泉たちの様子を見つめていた。うまく機能しない後輩二人を心配しているようにも、岩泉の姿だけを見ているようにも見えた。あるいは、どちらでもあるのかもしれなかった。じっと見ていると及川が気付いて、俺とばっちり目があった。及川は笑うように目を細めて、ドリンクに口をつけた。俺は笑い返さなかった。

 3セット目もデュースになったが、青城が取った。試合が終わって、戻ってきた後輩二人に、俺はおつかれ、と言ってドリンクを手渡した。二人は心底嬉しそうな顔で、礼を言った。岩泉みたいにいい声掛けが思いつかなかったので、試合中に二人が見せたいいプレーを上げて、褒めてみた。汗だらけの顔をタオルで拭いながら、大きな声でハイ!と返事する後輩は、なかなかかわいいな、と思った。国見はこんなかわいい反応をしないので、次は金田一を褒めよう、ときょろきょろと辺りを見回すと、体育館の隅っこで及川がストレッチをしていた。なんでこんな目立つ奴があんな隅にいるんだ、と一瞬思って、あぁ、何か気になることがあるのか、と気付いた。足を開いて前屈する及川はしきりに右足の太ももの裏を触っている。

「痛めた?」

「え、あーどうだろ。そこまでじゃない感じ」

「ふーん、クールダウン手伝うから寝て」

 及川はやったーと気の抜けた顔で笑って、そのままごろんと仰向けに寝た。俺は一瞬、こないだのことを思い出した。仰向けに寝る及川の右足を掴んで、持ち上げて腹につくようにゆっくり押す。「あー」とか「うー」とか唸る及川を無視して、太ももの裏の筋に触れる。ひきつったような感じはしなかったので、少し力をいれてほぐすように揉む。しばらくすると及川は小さな声で「あー、きもちいい」と呟いた。俺はまたあの日のことを思い出して、なんだかおかしくてぷっと吹き出した。

「なにー?あ、えっちなこと考えてるんでしょうマッキーのへんた~い」

「ちげーし。えっちなことだと思う及川クンの頭の中のがえっちです~」

「お前らなにやってんだよ」

 岩泉が後ろから来て、寝転んでストレッチをする及川を俺の背中越しに覗き込んだ。普段なら、及川のストレッチを手伝ったりするのは岩泉だった。何の取決めがあるわけでも、及川が岩泉に頼むわけでもない。ただ、なんとなくそう決まっていた。二人は小学生の頃から一緒にバレーをしている幼馴染だったから。だからきっと、岩泉は俺と及川が二人で体育館の隅にいるのを見て不思議に思ったのだろう。俺は少し優越感のようなものを感じた。友達に対して。岩泉はいい奴で、友達なのに、及川への気持ちを自覚した時から、俺にとってあいつはライバルになった。及川を取られるとしたら、ファンの女の子でも才能溢れる後輩でも、絶対的強者のエースでもなく、岩泉だ。俺は、友達に対してこんな醜い優越感を抱いてでも、及川と一緒にいたいのだった。こんなに虚しいことなんて、無いだろう。

 

 

 

 来週の月曜日、放課後にどっか行こうよ、と言って来たのは及川だった。練習後の片づけの最中、騒がしいチームメイトの間で、俺にだけ聞こえるように小さな声でそう言って悪戯っぽく笑った。こういうの、小悪魔っていうのかな。みんなに聞こえてまずいような会話じゃないけど、俺と及川が二人で出掛けるのは、友達同士のそれとは意味が違うから、俺は少しドキッとして、いつも通りの表情で答えてから、ちょっと周りを見回した。誰も見てるわけないのに、俺はちょっと自意識過剰かもしれない。全部及川が悪い。

 

 

 月曜日は祝日で、いつもなら休み返上で一日練習するところだったけれど、土日に練習試合が入ったから特別に一日オフになった。学校も部活も無い一日なんて、滅多にないから気持ちが逸った。及川と駅で待ち合わせをして、大型ショッピングモールの中に併設された映画館に向かう。及川はバレー以外のことに疎いというか、興味も無くて、俺が適当におもしろそうなのを選んだ。ドカーンとか、バーン!ってなるような映画なら、たぶん及川も観るだろう。

「今日何観るんだっけー」

「ドカーンってするやつ」

「やったー!さすがマッキー、男だねぇー」

 女の子ってイケメンの出てる恋愛映画ばっか観ようっていうし、と及川は笑った。及川が女の子と長続きしないのは、岩泉を好きだからという理由以外にもあるんだろうな、と俺はなんとなく思った。それに、俺が女の子だったら、一緒に観る映画決めてくれなきゃやだ!ってなるから、「今日何観るんだっけ」なんて呑気なことも言ってられないだろう。

「マッキーってさぁ、おしゃれだよねぇ、どこで服買ってんのー」

「別に普通じゃん」

「えー、まっつんも矢巾も言ってたよ。うちのおしゃれ番長はマッキーだかんねー」

 及川はそう言って笑ってから、小さい声で「俺服とかわかんないんだよね」と呟いた。及川徹という男から、そんなに自信無さげな言葉が出るとは思ってなかったから、俺はちょっと面食らって答えに窮した。それからちょっと間をおいて「俺ダサい……?」と及川が言った。及川と、友達として過ごしてきた短くも濃密な時間の中で、俺は一度もこんな顔は見たことがなかった。こんな顔を見たら、たぶん及川ファンの女の子たちは黄色い声で「おいかわくんかわいー!」って叫ぶのだろう。やっぱり及川みたいなのを小悪魔っていうんだ。

「及川さんがダサいとか、ファンの子たちが泣くよ」

「えー、笑われるかな俺?」

「んなことないでしょ。てかダサくないよ。それに及川なら全身ユニクロでも充分かっこいい顔してる癖にー」

「でもマッキーのそのTシャツとかジャケットめっちゃおしゃれじゃん。何が違うの?俺の服こどもっぽいー?」

「んー、かわいいよ徹ちゃん」

「やだー、照れる。ねぇ俺の服さぁ、これからマッキーが選んでよ」

 これから。それは、俺はこれから、こうやって及川と二人で出掛けることがたくさんあるってことだろうか。そうだろうな。そういう意味なんだろう。始まりの曖昧だった俺たちの関係に、恋人という名前を付けてもいいという、及川なりの表現だろう。

 俺はたっぷり間をとってから「いいよ」と返した。俺が答えるまで、及川は息を止めていたかのように、返事を聞いてからホッと息を吐いた。

 

 派手な映画は2時間の上映中に何度も大きな爆発があって、けれど主人公は絶対死ななかった。俺は暗闇の中で及川と手を繋ぐべきか迷って、ふらふらした手はコーラのカップを掴んで飲んだ。冷たいコーラをホルダーに置いた俺の手首を、及川の熱い手がぎゅっと握って、それは脈を測るみたいな強さで、全然色っぽくなかった。映画が終わってからそう言うと、あれは緊張するシーンだったから握っただけで、別に恋人繋ぎしようとしてたわけじゃないですー、と膨れられた。180㎝超えの男に膨れられても…と言うと、手繋いでほしいならそう言ってくれる?と笑われた。

 

 弱みに付け込んでなんとなく始まった俺たちの関係は、きれいじゃないけど、きれいにしていくことはできるだろうか。普通の恋人同士みたいになれるだろうか。もうすぐ冬が来て、春になったら、俺たちの世界はきっと、大きく変わっている。夏の終わり、俺は友達を一人失って、男の子の恋人が出来た。

 

 

bottom of page