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うに
「うに」
聞き間違いか、それか聞かせるつもりのない独り言だろうと思って無視した言葉が、今度は先ほどより少し大きな声で繰り返されて、岩泉も さ すがにこれは自分に対して言っているのだろうと顔をあげる。岩泉のベッドに腰掛けて長い足を持て余している及川の表情は、無表情にも見えたし、どこか真剣 なようにも見えた。
「うに」
三度目の言葉は、はっきりと、面と向かって岩泉に向けられた言葉だった。なんと答えようか迷って、岩泉は何が、と簡単に返した。
「あたまが」
じっと注がれる及川の視線が自分の頭に突き刺さるような感じがして、居心地が悪くなって岩泉は座り直す。
「ねむい」
そう呟いてバタッとそのままベッドに横になった及川からは、すぐに規則的な寝息が漏れ始めた。だろうな、と岩泉は声に出さずに心の中で答えた。
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はじめとおわり
「俺お前のこと、いつも考えてる。四六時中お前のことだけ」
囁くような小さな声は、抱きしめた及川の頭のてっぺんに向かって吐き出した。頭の先から巡り巡ってつま先まで、この言葉が呪いのように浸透して及 川徹を作り変えてしまえたらいいと思った。及川の柔らかい茶色の髪が、俺の吐く息でふわふわと動いた。その感覚がくすぐったいのか、及川はくすくすと笑っ てみじろいだ。
「俺もだよ。俺も四六時中俺のこと考えてるの。岩ちゃん、俺たち同じこと考えてるんだね」
及川の声には冗談を言っているような色は見えず、だからこそ岩泉は絶望的な自身の恋の結末を悟った。意趣返しに声に出して笑ってやろうとしたけれ ど、声は出ずにただただ岩泉は自嘲的な引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。この恋ははじめからずっと終わっていた。
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