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「次回予告」

 土曜日の朝からそういう雰囲気になり、暇にかまけて一戦交えた後の、気怠く堕落したこの部屋の空気は停滞していた。朝陽の差し込む部屋の中は、お互いの日に焼けていない肌がぼんやりと白く浮かんでいて、より一層濁った空気を濃くしていた。そういう穏やかなひと時に、花巻が突拍子も無い一言で国見の意識を自分に向けようとすることはよくあることで、だから国見は、また変なことをいい始めたぞ、という好奇心半分、期待半分の眼差しで肩肘をついて寝転ぶ花巻を見た。

「彼氏の貴大さんに次はアブノーマルなエッチをしようと誘われた英は!? どうしよう!? そんなエッチなこと出来ないよぉ! 次回! 『コスプレエッチなの? ソフトSMプレイなの?』どうする国見英!」

 早口で言いきった花巻に、この人よく噛まないな、と国見は内心感心しつつも、あまりにも下らない誘いに目を細めて花巻を見つめた。

「暑さで頭やられましたか」

「へーき。心配してくれてありがと」

 花巻は芝居がかった調子で、女の子がやるように国見の腕を取ってそこに頬をよせた。されるがままになりながら、だんだん面倒になってきた国見は、事後の気怠い睡魔に身を任せようかと目を瞑った。

「ところで、どっちがいい?」

 意識を飛ばそうと目を閉じた途端に繰り出される花巻のわくわくした声に、正直答えるのも億劫だったが、答えないのも可哀想な気がして国見は目を閉じたまま律儀に口を開く。

「……ソフトSMで」

「マジで!? ソフトってどこまでかな!? 目隠しとか? ディープスロートはしてくれるよな!?」

 途端に興奮した花巻が大きな声を出して、うとうとしかけていた国見はうんざりして薄く目を開く。体温が上昇してきて、国見の体はもう眠りに入る体勢になっていた。この人とくっついて寝たらあったかくて気持ちいいだろうな、と会話と関係無いことを考える。国見にとってSMがどうのという話はもうどうでもよかった。

「いいですよ」

「マジかよやったー! てか国見ってMだったの? 俺こんなにたくさんえっちしてたのに今日はじめて知ったよ」

 花巻がそう言うと、国見は微笑んだ。睡魔によるぼんやりとした意識の中で、普段よりもずっと柔らかい雰囲気の笑顔だった。弧を描いて細められた黒目がちの目も、緩やかに上がった口角も、少し乱れたさらさらの髪も、すべてが国見を美しく艶を帯びて見せていた。

「花巻さんですよ」

 花巻はどきりとして、固まった。場違いな綺麗な笑顔も、優しすぎる声も、全部がいつもの国見と違っていて、花巻はなんだか変な気分になりそうだった。国見の腕が伸びてきて、自分の頭を抱え込んでその胸元に抱きよせようとも、花巻は何も言えずに固唾を飲むだけだった。

「ディープスロートするのは」

 国見の唇が、花巻の耳に触れた。温かい息がかかり、思わずピクリと反応するが、頭を抱きかかえられていて動けない。下半身が反応してしまいそうで、慌てて腰を引く。普段なら反応しても押し当てるくらい平気でするのに、今の国見にそんなことがバレてはいけないような気がした。

「たくさんご奉仕して下さいね」

 花巻の背筋をゾクゾクと快感が走った。あれ、俺ってもしかして、そうなのか?国見の色白で筋肉の付いた胸に顔を寄せながら、花巻は友達の持ってきたエロ本を初めて読んだ中学生の頃のような罪悪感と期待感、抑えられない興奮を感じていた。

「はい、女王様……」

 半分本気、半分冗談のような気持ちで呟いた言葉は、声に出すとずっと真実味を帯びて聞こえた。

 

 

 

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