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金田一後天的女体化注意。ワンドロのお題だったものです

 

 

 

 どうしようか迷って、それでもいつも通り学校へ行ったのは、それ以外にどうしたらいいかわからなかったからだ。でも、今から思えばもっと別の方法があったろうとあの時の自分を殴ってやりたい。どうして自分はいつも馬鹿なことをしてしまうんだろう。こんなだから国見にもいつも怒られるのだ。もっとしっかりした男らしい人になりたい。そう、岩泉さんのような。金田一は自分の胸に手を当てて思った。硬い胸板に到達する前に、ぎゅう、と柔らかな肉に手が触れた。

 

「まぁ仕方ねェよ、金田一だってどうしていいかわかんなかったんだろ」

「でも普通学校来ないですよ。家で寝てろよばか」

 岩泉のフォローに、それでも国見は怒りが収まらないのか、尚も冷たく言い放つ。馬鹿という言葉はこの10分間でもう嫌というほど聞いた。自分でもどうしていつも通り朝練に来たのだろうと今後悔している真っ最中だ。夢なんじゃないかと思ったのだ。それに、こんな大きな胸があって、トイレに行ったらなんか付いてないし、もうびっくりを通り越して青褪めてしまった金田一は、思春期の恥ずかしさもあって母親にこんな大きな胸を見られるのも嫌で、どうしようも無くなって朝ごはんもそこそこに家を飛び出してきてしまったのだ。

「すいません岩泉さん……おれ、どうしたら」

「だから寝てろよ!」

「ね、寝たって解決しないだろ!」

 ロッカールームの椅子に座りうな垂れる金田一に、国見は上から見下ろしてイライラと言い募る。金田一は背が高く、青葉城西男子バレー部一の高さを誇るが、それはこんな不思議な体になった今も変わらないらしい。金田一の背は179㎝の岩泉よりも、182㎝の国見よりもずっと高かった。けれど普段よりずっと体は丸みを帯び、胸はびっくりするほど膨らんで、自分では見えないが心なしかユニフォームのズボンのお尻がキツい。

 朝練の着替えの時、誰にも見つからないようにこっそりギリギリの時間にロッカールームに入って着替えていた金田一は、たまたま荷物を忘れて戻ってきた岩泉と、寝坊して遅刻ギリギリにやってきた国見に見つかって今に至る。

「お前そんなでっかい胸でユニフォーム入ると思ったのかよ」

「お、おい国見! 女の子にそういうこと言っちゃだめだろ!」

「落ち着いて下さい岩泉さん、金田一は女じゃありません」

 国見の直接的な言葉に、金田一だけでなく岩泉まで顔を赤くして慌てた。金田一は慌てて自分の胸を両手で隠す。

「ず、ズボンだって入ったんだからTシャツだって入るだろ!」

「へーじゃあやってみろよ。お前そんなでっかい胸で下着も着けずにTシャツ着たら大変なことになるからな」

 国見の言葉に一瞬ぽかんと口を開けていた金田一だが、すぐにその意味に気付いて更に真っ赤になる。岩泉もその意味に気付いたのか、赤い頬を隠すように金田一から顔を逸らした。

「と、とりあえず服はそのままでいるとして」

 岩泉は出来るだけ金田一の胸を見ないように目線を逸らしたまま場をまとめるために一つこほんと咳払いをして始めた。

「今日は練習に参加しなくていい。というか、他の人に見られたら大変だし、とりあえずどっかに隠れてろ。時間が経てば元に戻るかもしれないし。俺は金田一が体調悪いから付き添うって及川に言ってくる。国見はどうする?」

「俺もこいつに付き添います」

 国見は間髪入れずにそう言った。

「すみません……」

 国見は表情に乏しいし、歯に衣着せぬ物言いをするから誤解されがちだが、困った時にはいつも優しくしてくれる。岩泉さんは中学の頃からかっこよくて頼りになる憧れの先輩だった。金田一は赤い頬を両手で覆って、二人に礼を述べた。

 

「お前どうせ女になるなら少しくらい縮めよ」

「な、なんだよ! 無茶言うなよな!」

 俺の意思じゃないんだし、と金田一は唇を尖らして不満をあらわにする。生徒の登校時間が終わるのを見計らってこっそり学校を抜け出した三人は、駅の近くのカラオケボックスに入った。ここなら誰かに見つかる恐れも無いし、個室だから安全だろうという岩泉の考えだった。

「体そのまんまで女になられても困る」

「体ちっさくなっても女になるなんて困るわ!」

 国見の言葉に思わずつっこみを入れてから、金田一は溜め息を吐いた。岩泉はさっきトイレに行ってから帰ってこない。

「岩泉さん遅いな……」

「抜いてんのかな、お前で」

「は!?」

「だってお前胸でかいし」

「な!?」

 金田一は思わず身を守るように両手で胸を隠す。

「それにケツでけーし」

「し、失礼なこと言うなよ!」

「下どうなってんの?」

 国見はそう言うと、すっと体の距離を詰めて、金田一の太ももに手を置いた。

「ちょ、やめろよ」

「男同士だろ」

 慌てて国見の手を掴むも、なぜだか全然押し返せない。力が入らないわけではなく、全力でこれだけしか力が出せないのだ。どうやら腕力も女になってしまったらしい。

「い、今は女だから!」

「はぁ? そんなら女でもいいよ」

 男でも女でも、俺は別にお前ならいいよ。国見はそう言って金田一の肩をぐっと押して倒れた金田一に馬乗りになった。男でも女でもお前ならいい。その言葉の意味を考えながら、金田一は覆いかぶさってくる国見の吸い込まれそうな黒い瞳と白い肌を見ていた。

 ずっと、女みたいなきれいな奴だと思っていた。自分より背が低くて、肌も白くて、大きな瞳が女みたいで、髪がさらさらしていた。でも、女になってみてわかった。国見は男だ。力も強くて、自分よりずっと度胸だってある。女でも男でもいい。きれいな白い肌と黒い瞳のコントラストを呆然と見つめていたら、唇が重なって、その時やっと金田一は男でも女でもいいという言葉の意味がわかった。国見の手が腰をなぞって、合わせた唇の隙間から自分でもびっくりするほど甘い声が出た。角度を変えて深く唇を合わせる度、国見の長めの前髪が頬をくすぐって、それすらとても恥ずかしいことに思えた。

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