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「……ごめん、悪かった」

 謝罪の言葉が聞きたかったわけではなかった。ただ、過去を消して欲しかった。そうしてくれなければ、もう前と同じように彼を愛することなどできないと思ったのだ。

 黙っている国見に、花巻はもう一度「ごめん」と言った。頭の中がごちゃごちゃして、冷静に考えることが出来なかった。もう全部なかったことにしたかった。この人を好きになった五年前の自分も、初めてキスした四年前の自分も、同棲を始めた三年前の自分も、世界で唯一、好きだと思ったこの人のことも。

「国見、本当にごめん、ごめん。俺、ただ……ずっと国見とまともに話もできなくて、それでただ、寂しかったんだ。国見のことが好きなんだ。ごめん、ごめん、こんなこと、するつもりじゃなかった……」

 本当にごめん、と言う花巻の声は震えていたけれど、もうそれもわからないくらい国見の神経はピリピリと尖がって、お腹の底から悲しみがせり上がってくるような気がした。いま声を出したら、きっと同時に涙が溢れて止まらなくなるだろう。そして言葉は止まらなくなって、花巻への罵倒と、大人げない嫉妬心と、どうしようもない願いが後から後から飛び出すだろう。そんなみっともないことはしたくなかった。浮気されただけでも惨めなのに、もう変えられない過去のために喚いて怒鳴ってこれ以上惨めになる必要なんてない。

「国見、なぁ。なんか言ってくれよ……」

 今にもくずおれそうに頭を垂れた花巻の手が、縋るように国見の手に触れた。その手をサッと引っ込めて、国見は出来るだけ冷たい声で言った。

「花巻さんのことは、もう忘れます……」

 喉が震えて、声は最後になるほど小さくなった。花巻は弾かれたように顔を上げて、国見を見た。その目には涙がたまっていた。泣きたいのはこっちだ、と国見は怒鳴りたいのを堪えた。

「ごめん、国見ごめん。お願いだから許して欲しい。なんでもするから、本当にごめん。お前のことが好きなんだ。ほんとに、ほんとに」

「じゃあ」

絞り出すような国見の声は震えていて小さかったけれど、それでも花巻は言葉を止めて縋るような瞳で国見を見た。国見はもう、抑えられなかった。

「じゃあ何で浮気なんかするんですか! 俺のこと好きなんじゃないんですか! そうやってさっきの女にも好きだって言ったんでしょ! キスしたんでしょ! その口で、俺に好きだって言うなよ!! あんな汚い女とセックスしたあんたとなんか二度とセックスしたくない!!」

 国見は力任せにそこらへんにあった雑誌やペットボトル、花巻の仕事用の鞄を手当たり次第に投げつけた。もう全てが嫌だった。なかったことにしてほしかった。

「国見、ごめん、ごめん」

 花巻は何をぶつけられても国見に近寄ってきて、その体を抱きしめた。国見は力任せに振りほどいて、叫ぶように言った。

「じゃあなかったことにしろよ! あんたがあの女とキスしたのも、フェラしてもらったのも、あの女にちんこ突っ込んだのも!! 全部なかったことにしろよ!! なかったことにしろよ!!」

 四月に引っ越してきたばかりの2DKの小奇麗なマンションの一室に、国見の声だけが響いた。もうどうしたって元には戻らないことを、国見は頭の片隅で感じていた。

 

 

 

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私は3RTされたら、花国の「……ごめん、悪かった」で始まるBL小説を書きます!d(`・ω・)b (twitter診断メーカーより)

タイトルはGARN〇T C〇OWさんのUの冒頭をちょっと変えたものです
 

 

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